弁護士として法律相談をすると,典型的な誤解を持ち込まれて,その解消をする,ということがあります。昔,よくあったといわれているのは,破産すると戸籍にのる,というものです(もちろん,そんなことはありません。)。

実際に法律相談でいわれることはほとんどないのですが,インターネットでよく聞かれるのは「問題があったら,被害者・権利者から請求されるので,そのとき対応すればいい」「裁判所が決めるまで違法ではない」というものです。

いずれも間違いですが,今回は,このことについて解説します。

なお,この問題については,「そのつぶやきは犯罪です」でも解説をしています(同書は,インターネットに出回る法律に関する誤解についても重点的に取り上げています。)。

まとめ

①権利義務の発生,違法行為の責任は,行為した瞬間に発生する。
裁判所は,事後的に判断するだけであり,「判決がない」ことで責任は免れない。

1.よくいわれていること

「(無断)転載をしたが,権利者から請求があったら対応すれば大丈夫」
「賠償を請求されたが,裁判所の判決は出ていないので,判決が出るまで無視で大丈夫」

2.権利も義務も,行為(事件)の瞬間に発生する

1のようなことは,よくいわれていますが,これらは基本的に間違いです。
権利も義務も,不法行為の成立(賠償責任の発生)も,裁判所の判決で発生するものではなく,その行為の瞬間に発生します。
裁判所は,事後的に判断をするに過ぎません(なお,判決の確定ではじめて権利義務が変動する訴えの種類もありますが,それは例外です。)。

例えば,交通事故に遭って救急車で運ばれて,搬送先の病院でレントゲンをとって骨折があると診断されたとします。
このとき,骨折をしたのはいつか,診断をしてはじめて「骨折」したのではありません。事故の瞬間に骨折したのです

法律についても同様のことがいえます。
普段は,法律のことを意識することはありませんし,その必要もあまりないかも知れません。
ただ,他人の名誉権やプライバシー,著作権といった権利を簡単に侵害してしまいがちなインターネット上では,注意が必要であるといえるでしょう。

3.ネットの法律問題で注意をしたいこと

ネット上に他人の名誉やプライバシー,著作権を侵害する投稿をした場合,その責任は,投稿の瞬間に発生します。
請求されたら対応すればいい,と考えているかもしれませんが,その時点では遅いのです
責任は,請求に対応をしない・削除をしない,ということではなく投稿に生じるということを,くれぐれも注意をしたほうがいいでしょう。

要するに,請求者(被害者)に任せるのではなく,自分の判断で「いいのか・わるいのか」責任をもって判断する必要がある,ということです。